A Note

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通話 (EXLIBRIS)

通話 (EXLIBRIS)


"「皮肉とユーモア、不安と恐怖が、知性の房を抜ける鮮血となって、文学の心臓を支えている」(堀江敏幸氏)" 堀江さんの小説は読んだことがないのだが、この詩的な帯文はそれほど外してはおらずよく言い表していると思う。表拍子の装丁に用いられたこの写真も暗く幻惑的で僕は好みだ。シルクの白い優雅な服を着たこの女性が向かうのはいったいどこだろうか。女性がドレスアップして行こうとする場所をいくつか考えることができる。友人の結婚式、友人の結婚式、それに友人の結婚式…。いくつかと書いたのに結局一つしか考えられなかったのは果たしてどうだろう。

この本に収録された14の短編を通じて流れている音楽は不安げで寄る辺のないものだ。当然あると思って手を伸ばした先に目的のものがなかったときの騙されたような不思議な感じがあり、いかなる幸福もいつかは終わるものだと夜の深い時刻にふいに考えてしまうときのような漠然とした恐怖がある。まだ全て読んだわけではないのだが、14の短編には個人の人生を描いているものが多い。決して華やかではないし、最後の最後には大きな幸福が待ち受けているかというと別にそういうわけでもない普通の人たちの、ある意味ではみすぼらしく失敗続きの人生にボラーニョは寄り添って書いている。ある短編では主人公とその生の途上で出会い身の上話を聞くことになった第三者に語らせるという形で、またある短編では主人公自らが自分の来歴を語る形で、というふうにやり方を変えながらも、それぞれの短編につきある一人の人生へフォーカスして書いている。いかなる人の生もそれぞれに語られるべき豊かなディテールを持つのだし、たとえ挫折や失敗を繰り返し最後までそれほどの成功を収められない人生であっても、それが確かに生きられたものなのだというそのことによって尊いのだと、この一冊をもって皮肉屋の著者なりに人間の生きる喜びと悲しみを肯定している。ところで "2666" がいつ日本語に訳されるのかな。きっと誰かがもう取りかかっていると思うけど、それがこの著者の遺作にして最高傑作であるらしいという英語圏における評判によって僕は楽しみにしている。

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survive

1...
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4 [VERB]
If you survive someone, you continue to live after they have died.
"Most women will survive their spouses..."

Collins COBUILD Advanced Learner'sから "survive" の項。僕はsurviveという動詞が上に引用した意味を持つということは今まで知らなかった。つまり "誰かの死を超えてなお生き続ける" という意味があるみたいなのだが、たしかにどんな生命もやがてはその活動を終える以上、愛する人の死というのは人生において誰もが乗り越えなければならない厳しい試練の一つであると言える。用例も掲げられている。"Most women will survive their spouses...(ほとんどの女性は夫より長生きする...)" 僕は男だから "お前の方が早く死ぬぞ" と言われているのではないかと少し悲観的に考えてしまいがちだが、これはそういう嫌がらせではないのだろう。どんな国でも平均寿命は男性よりも女性のほうが一貫して長い。きっとそうでない国はないだろう。何だかんだといって男はさっさと死んでしまうものなのだ。そういうわけで単純に夫が先に死に、妻がそれよりも長く生き続けるという夫婦が多いのだろう。それとは別の話だが、夫を亡くした女性はやがて元気になるが、妻を亡くした男性は酒浸りになってさっさと死んでしまうとよく言われる。もし仮に愛情に基づくある程度長期的な関係が壊れた際に女性よりも男性のほうが受けるダメージは大きい場合が多いのだとしたら、それは両性の間のどのような差異によるものだろうか。まあ何にせよsurviveすることは必要だし、未来は続いていく。