A Note

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解離性同一性障害、100人の証言 】

鳥肌
主治医や院長から、看護師への解説を聞いても、解離性同一性障害という病気を全面的には信じられませんでした。何より、20年間の精神病院勤務の私の経験がそんな病気の存在を受け付けませんでした。他の看護師から、人格交代の場面の報告を聞いても、その人たちはだまされているんだと思っていました。時々子供返りする患者さんの言動をどうも演技っぽく嘘っぽく思っていました。

ある日、私が夜勤をしていたら、突然、子供の泣き声が聞こえました。16歳のDID患者の部屋からです。部屋に駆けつけてみると、患者さんがベッドの上で膝を抱えて大声で泣き叫んでいました。「許して、許して、もうしません。もう、もう、はたかないで。トイレに閉じ込めないで。ごめんなさい」
正直に言って、私はその子が嘘泣きをしていると思いました。あまりに大げさな泣き方だと思ったからです。それでも職業柄、形だけでも慰めようと肩に手を置くと、その子は「ヒー、痛いー、やめて」と悲痛な叫びを挙げました。その時私は、しっかりとこの目で見ました。患者の頭と額は冷汗で湿り、両腕と大腿部、首筋に鳥肌が立っていました。両膝の間に伏せた顔を下からのぞきこむと、大粒の涙が流れ落ちていました。さらにその下のお尻から足元のあたり、シーツが濡れていました。恐怖のあまり尿失禁をしたのです。嘘泣きではない。この患者は本当に4歳の被虐待者の体験をしていて、今痛みを感じているんだ。「許して、許して」とブルブル震える大きな「幼児」を前に、私は自分の体にも鳥肌が立つのを感じました。その瞬間、患者は「キャー」とひときわ高く叫び声を挙げてバタンと横に倒れそのまま失神してしまいました。5分後に目覚めた患者は、駆けつけた当直医と私を不思議そうに見上げてゆっくりと言いました。「どうして先生と看護婦さんがいるの、私が何かしたの」

私は、自分の体験から言えます。解離性同一性障害の診断を受け入れられない医師や看護師は、要するに、この疾患を持つ患者を見たことがないのです。あるいは、経験が少なすぎるのです。典型的な患者を何例か見れば、誰だってこの疾患の存在を受け入れざるを得ません。(40代、看護師)


人間は不思議に満ちてる。ただ、そんなふうに僕みたいな幸福な第三者がまったくの好奇心から個別の症例を面白がることに罪の意識も感じるのは、解離性同一性障害=Dissociative Identity Disorder=DIDという病気、それは言い換えてみれば、個々人が正気でいては耐えがたいような苦しみの時間をなんとか耐え忍び、文字通りの意味で生きのびるため取らざるを得なかった最終的な手段、テクニック、その一つの表現形であっただろうからだ。

子供に対する暴力や性的な虐待はこの世界における最も純粋な悪の形だ。子供は逃げる能力を持たない。ただ、人間は悪いということ、つまり自分たちには地獄を生み出す能力もあることまで含めて理解しなければいけない。吐き気を催すようなことができるのも人間の能力に含まれる。大切なのは泣いたり騒いだりせずに克明に見て理解しようと試みることだ。でも無感覚にならないこと。